シマウマはなぜ馬にならなかったのか — 家畜化できなかった動物たち

更新日 2026年10月家畜にならなかった動物

サバンナに立つシマウマと馬、奥で休むチーターと跳ねるガゼルのイラスト

牛、馬、羊、豚……。私たちの身の回りには家畜があふれていますが、実は家畜になれた大型動物はほんのひと握りです。

148種中14種という狭き門

進化生物学者ジャレド・ダイアモンドは著書『銃・病原菌・鉄』で、体重45kgを超える大型の草食・雑食の陸生哺乳類148種のうち、古代に家畜化されたのはわずか14種だと数えました。羊・ヤギ・牛・豚・馬の5種が世界中に広まり、ほかにヒトコブラクダ・フタコブラクダ・ラマ(とアルパカ)・ロバ・トナカイ・水牛・ヤク・バリ牛・ガウルが地域的な家畜になっています。

アンナ・カレーニナの原則

ダイアモンドは、トルストイの小説『アンナ・カレーニナ』の書き出し「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである」になぞらえて、こう説明しました。

家畜になれた動物はどれも似た条件をそろえている。家畜になれなかった動物は、それぞれ別の理由でなれなかった。

条件のどれか一つでも欠けると家畜にはならない、というわけです。

家畜化をはばむ6つの壁

条件どういうことか当てはまらなかった例
食べ物何をどれだけ食べるか。肉食動物を育てるには、その何倍もの量の草食動物が必要になる大型の肉食獣、アリクイ
成長の速さ大人になって子を産むまでに何年もかかると、増やすのに時間がかかりすぎるゾウ、ゴリラ
飼育下での繁殖囲いの中で恋をして子を産んでくれるかチーター、ビクーニャ
気性大きく力が強く、人を傷つける性質があると扱えないシマウマ、アフリカスイギュウ、クマ
パニックのしやすさ驚くと逃げ出したり、柵に激突したりするガゼル、多くのシカ
群れの社会序列のある群れで暮らし、人がリーダーの役を引き受けられるか縄張りを持って単独で暮らす動物の多く

シマウマ — 馬に近いのに家畜にならなかった

シマウマは馬と同じウマ科の動物で、アフリカには何千年も前から人が暮らしていました。それでも家畜にはなりませんでした。シマウマは年をとるほど気性が荒くなり、一度噛みつくと離さない癖があると言われます。ダイアモンドは、アメリカの動物園ではシマウマによる飼育員のけがのほうがトラによるものより多い、とまで書いています。

さらに、投げ縄が飛んでくると首をすっと下げてかわす反射を持っていて、つかまえること自体が難しい動物です。19世紀のイギリスでは、銀行家の一族ウォルター・ロスチャイルドがシマウマに馬車を引かせてロンドンを走ったという有名な話がありますが、それはあくまで個体を「慣らした」例で、シマウマという種が家畜になったわけではありません。

気性だけが理由?近年は、アフリカにはウマ科の動物がかかりやすい病気を運ぶツェツェバエが多い地域があることや、アフリカの動物は人類と長い時間を一緒に過ごしてきたため人への警戒心が強いことなど、環境や歴史の要因も合わせて考えるべきだという見方もあります。

チーター — 何千年も飼われてきたのに

チーターは古代エジプトや中世のインド、ペルシャなどで狩りのパートナーとして飼われていました。とてもおとなしく人に慣れる動物です。ところが飼育下ではほとんど繁殖せず、そのたびに野生の個体をつかまえるしかありませんでした。広い場所での追いかけ合いなど、繁殖に必要な行動が囲いの中では成り立たないと考えられています。飼育下での繁殖が初めて記録されたのは20世紀半ばのことです。

ゾウ — 働いてはいるけれど家畜ではない

アジアゾウは昔から荷運びや儀式に使われていますが、その多くは野生でつかまえた個体を訓練したものです。ゾウは子を産めるようになるまで十数年かかり、妊娠期間も約2年と長いため、人が世代を重ねて選ぶことがほとんどできませんでした。人と一緒に働けることと、家畜化されていることは、別のことなのです。この違いは「慣れている」と「家畜化」の違いでもくわしく紹介しています。