犬と人が見つめ合うとき — 視線、オキシトシン、子犬の社会化期
更新日 2026年10月犬・猫・ペット

犬はほかのどの動物よりも、人の気持ちや合図を読み取るのが得意です。その背景には、何千年もかけて人と一緒に変わってきた歴史があります。
見つめ合うと、両方で絆のホルモンが増える
2015年、麻布大学の研究グループが科学誌『サイエンス』に発表した研究は大きな話題になりました。犬と飼い主が見つめ合うと、飼い主と犬の両方で、オキシトシンというホルモンが増えることがわかったのです。オキシトシンは、母親と赤ちゃんの絆にも関わることで知られるホルモンです。
さらに、犬にオキシトシンを嗅がせると飼い主を見つめる時間が長くなり、それによって飼い主のオキシトシンも増える、という「見つめ合いのループ」が確認されました。人に育てられたオオカミでは、こうした変化はほとんど見られませんでした。人と犬は、親子に似た絆のしくみを共有するように進化してきたのかもしれません。
指差しがわかるのは子犬のときから
食べ物を入れた容器を人が指差すと、犬はそちらを選ぶことができます。当たり前に思えますが、これは動物の世界ではとても珍しい能力です。チンパンジーでさえ、この課題は苦手なことが多いのです。
アメリカの研究では、まだ人とあまり関わっていない生後8週ほどの子犬でも、人の指差しや視線をある程度理解できることが示されました。しかも、その能力の個体差には遺伝が大きく関わっていると考えられています。人の合図を読む力は、育ち方だけでなく、犬という動物にもともと備わったものになっているのです。
「困り顔」の筋肉
犬は眉の内側を持ち上げて、目を大きく見せる表情を作ることができます。2019年の研究で、この動きをつくる筋肉が犬ではよく発達している一方、オオカミではほとんど見られないことがわかりました。子どものようなこの表情に人が弱く、そうした犬がかわいがられてきた結果ではないか、と考えられています。
大人になっても子どもっぽい
犬はオオカミに比べて、大人になってもよく遊び、人に甘え、丸っこい顔立ちを残しています。このように子どもの特徴が大人まで残ることをネオテニー(幼形成熟)と呼びます。人が「かわいい」と感じる特徴を持つ犬が大切にされ、子孫を残してきたことも、この変化を後押ししたと考えられます。
子犬の社会化期を大切に
子犬には、生後およそ3週から12〜14週ごろまで、新しい人や音、ほかの犬などを受け入れやすい社会化期と呼ばれる時期があります(時期の区切り方には諸説あります)。この時期にさまざまなものに無理なく触れておくと、大人になってからも落ち着いて暮らしやすくなると言われています。
オオカミの子は、警戒心が固まる時期が犬よりも早いとされます。この「学べる時期の長さ」の違いも、犬が人と暮らせるようになった大切な理由の一つです。子犬を迎えるときは、ワクチンの時期などとの兼ね合いも含めて、獣医師やトレーナーに相談しながら進めると安心です。
参考にした主な資料
- Nagasawa et al. (2015) Oxytocin-gaze positive loop and the coevolution of human-dog bonds. Science
- Hare et al. (2002) The domestication of social cognition in dogs. Science
- Bray et al. (2021) Early-emerging and highly heritable sensitivity to human communication in dogs. Current Biology
- Kaminski et al. (2019) Evolution of facial muscle anatomy in dogs. PNAS